SAMマウスの分与をご希望の皆様へ

SAMマウス分与を受けられるに当たって

~会員としてSAM研究協議会への積極的な参加をお願いします!~

<はじめに>

この度、諸先生および貴企業の研究グループがSAMマウスを使用されることを知り、永年に亘ってこのモデルの開発・研究に携わってきたひとりとして嬉しく思いますと共に、先生方のご研究のすばらしい成果を期待するものです。そこで、以下、SAM開発から委託生産・分与が実現するまでの道のりを紹介する中で、SAM研究者の成果発表、繁殖用ペア の配布は勿論のこと、研究の進め方、あるいはSAMの系統維持のノウハウはじめ、情報の伝達・交換等にいたるまで、SAM研究に関わる様々な側面でSAM研究協議会が果たしてきました重要な役割について述べたいと思います。そして、これを通して、先生方、ならびに企業の皆様にSAM研究協議会へのご理解を深めていただき、SAM 研究の更なる発展にお力添え下さいますよう心から希望するものです。

<SAM開発と諸事業の発展>

SAMモデルのルーツは数ぺアのAKR/J系マウスで、1968年、ジャクソン研究所から京都大学結核胸部疾患研究所病理学部門に導入されました。
これらを継代維持するなかで、老化徴候のはげしい腹の存在に気づき、以後、老化度ならびに寿命データを指標に選抜された腹を用い、兄妹交配を繰り返すなかで近交系として確立されてきたのが老化促進モデルマウス、Senescence-Accelerated Mouse (SAM)であります。
現在、SAMは、これまでに分離・確立されてきました全部で20にもおよぶサブラインから成り立っています。1981年に私達が発表しましたSAMについての最初の論文で、このモデルの示す老化の特徴は“促進老化”、即ち、ほぼ正常な成長を終えたのち成熟期に入って現れ、加齢と共に急速且つ不可逆的に進行する老化である事を明らかにしました。この点は他の老化モデル動物、特に遺伝子改変操作により作出されたモデルとは異なるSAMモデルの特性の一つと考えられます。次いで、1982年、国・内外の研究者の要望により京都大学よりコンべンショナル条件下飼育の繁殖用ペア の配布が先ず武田薬品工業(株)実験動物管理室を皮切りにスタートしました。SAM配布を受けた施設の増加に伴い研究成果が次第に蓄積される中で、研究成果発表の、あるいは情報交流の場を求める声が強まり、1984年、京都大学において最初の研究発表会が開催され、その推進母体としてSAM研究協議会が発足いたしました。この間、武田薬品工業(株)実験動物管理室に導入されましたSAM諸系統は間もなくSPF化され、また、SPF化の遅れていました系統も、その後、鹿児島大学医学部動物実験施設にてSPF化されました。このSPF化の達成により、京都大学からのコンべンショナルSAMマウスに加え、1984年頃から武田薬品(株)、そして、少し遅れて鹿児島大学よりSPF化SAMマウスの夫々繁殖用ペアが配布されることになりました。結局、1982年に始まった繁殖用ペアの配布は、後に述べます委託生産・分与の体制がスタートする2002年7月まで続いたことになります。
因みに繁殖用ペアーの配布を受けた研究施設の数は、国内 233、国外17カ国 69に達しました。

先に述べました研究発表会も定例化し、今年7月で第21回を数えます。このほか、研究協議会主催により学術発表の事業として、第1回SAM京都シンポジウム(1987年・京都)、第1回ならびに第2回SAM国際会議(1994年・京都、2003年・札幌)、老化研究動物モデル国際研修集会(1995年・京都)が開催され、SAM研究の成果が国、内外に発信されました。
次に、これら研究発表を支えてきた地道な事業について、その主なものを挙げますと、年1回のサ-キュラー発行、研究発表会抄録集ならびに論文発表リスト発行、繰り返し行われた遺伝学的ならびに微生物学的モニタリング、第16回まで定期的に実施された“老化度評点システム”に基づく個体レべル老化度評価方法の紹介と実習、SAM研究協議会ホームぺージ開設、会員メーリングリスト作成等による情報伝達システムの整備、さらに国際老化研究リソーシス研究所(IBRI)設立・運営への協力などの国際交流等があります。

<SAM委託生産・分与の実現>

SAM配布の事業が年ごとに進展し、SAMを扱う研究者の増加と研究分野の拡大が急速に進行する中で、1990年頃より国、内外からSAMのより安定した供給システム確立を望む声が次第に強まってまいりました。配布された僅か2~3の繁殖用ペアから繁殖をはじめ実際に実験に供する迄に費やす時間と労力、さらにこの間の動物死亡-実験不能等のリスクを考えますと、当然の要求と思われます。協議会もこの要求を取り上げ、重要な課題として取り組む事になりました。この結果、実験動物の飼育・管理に豊富な実績を有し、且つ終始、SAMの受託生産・分与に意欲を示していただいた日本SLCに業務を委託することを決定し、2000年、その起源になる繁殖用ペアーが武田薬品(株)と鹿児島大学より日本SLCに導入されました。以後、準備の過程で遺伝学的ならびに微生物学的モニタリングを徹底することは勿論の事、各系統に特徴的な表現形のチエツクにも細心の注意が払われました。当初の予定より若干の遅れを見ましたが、2002年7月より委託生産によるSAMマウスの供給が開始されました。以後、委託生産ならびに分与の事業は順調に進行しておりますが、品質のより優れたSAMマウスのより安定した供給のため、SAM研究協議会、日本SLC共々引き続き一層の努力を重ねていく所存です。

<会員として積極的な参加を!>

以上、述べましたように、SAM研究協議会のもとでSAM研究推進のための諸事業が展開されてきました。この協議会の運営の財政的基盤は、当初、SAMを使用している企業からの寄付に依存していましたが、やがて諸事業の進展と共に組織の強化・安定をはかる必要に迫られ、1997年、新たに制定された会則に従って運営される事になりました。即ち、会員制の導入により、研究協議会の一切の運営は会員(個人会員と賛助会員)の納める会費によって賄われることになりました。実際、この会員制の導入により組織の安定化が計られ、SAM研究を支える様々の活動が活発に行えるようになりました。しかし、SAM研究のより一層の飛躍を期するためには、より安定した財政的基盤の下で定例の研究発表会はじめとする学術集会ならびに研究支援に関連する諸事業をより一層活性化させる必要があります。
このような観点から、今回、先生または貴企業がSAMマウスを使用されるにあたり、同意書に示されていますように協議会の会員として積極的に参加され、SAM研究のより一層の発展のためお力添え下さいますよう心よりお願い申しあげる次第です。

<おわりに>

既にSAMマウスの老化の特徴は“促進老化”であることを述べましたが、その後の研究により、多くの興味ある事実が明らかされてきました。そのなかの一つは、SAM各系統には比較的系統特異的に学習・記憶障害、情動障害、骨粗鬆症、難聴、老化アミロイド症、白内障等が自然発症し、加齢に伴って重篤化することです。これらの病態の多くはヒト老人で問題になっている病態であります。然し乍ら、一方では未だに解明をみない部分-本当に知りたい本質的な問題-は殆ど未解決のまま残されていると言っても過言ではありません。例えば、SAM樹立の遺伝的背景、“老化促進”の本態、各種病態の関連遺伝子の解明を含めその病態発症メカニズム、更にはこれら病態について効果的な予防、抑制、治療方法の探究等であります。いずれも早急な解明が望まれる課題でありますが、折しもSAMマウスのより効率的な研究を支援する生産・供給体制が整ってまいりました。どうか、先生方の情熱と力で未知の部分に挑戦し切り崩してください。そして、それらの研究を通してSAMマウスの有する未知な属性に光があてられ、SAMのモデル動物としての価値が明らかにされていくことを期待しております。
最後になりましたが、先生そして貴企業の研究の益々のご発展を心よりお祈りします。

2006年2月吉日

老化促進モデルマウス(SAM)研究協議会 会長 竹田俊男
研究協議会事務局:〒604-8856京都市中京区壬生西大竹町24
TEL・FAX:075-322-6272
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